2026年8月3日、AI研修でよく使われる「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」が改正されました。DX化に関する訓練のうち、「DXの概念を学ぶ」「汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ」といった内容は、助成の対象外であることが明示されています。
製造業でAI研修を検討している会社にとって、これは研修の選び方に直結する変更です。この記事では、助成金の概要と改正のポイントを厚生労働省の資料にもとづいて整理し、製造業がAI研修を選ぶときのチェック項目をまとめます。制度の詳細と最新の情報は、必ず管轄の労働局にご確認ください。
AI研修に使える助成金の概要(事業展開等リスキリング支援コース)
このコースは、新規事業の立ち上げやDX化などに伴って、従業員に新しい分野の知識・技能を習得させる訓練を行った場合に、訓練の経費と訓練中の賃金の一部を助成する制度です。おもな内容は次のとおりです(出典:厚生労働省 人材開発支援助成金のページに掲載の「令和8年度版 事業展開等リスキリング支援コースのご案内(令和8年8月3日版)」)。
| 項目 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 経費助成(訓練の費用) | 75% | 60% |
| 賃金助成(1人1時間あたり) | 1,000円 | 500円 |
| 経費助成の限度額(1人1訓練あたり・10時間以上100時間未満) | 30万円 | 20万円 |
| 同(eラーニング・通信制の場合) | 15万円 | 10万円 |
- 実際の訓練時間が10時間未満の場合は、原則として対象になりません
- eラーニングや通信制の訓練は、経費助成のみで、賃金助成はありません
- 令和4年度から令和8年度までの期間限定の助成金として創設されています
2026年8月の改正:助成の対象になるAI研修、ならないAI研修
改正の案内では、DX化・GX化に関する訓練について、「職業または職務に間接的に必要となる知識・技能を習得させる内容のもの」「職業または職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となるもの」は助成対象外とされました。厚生労働省の資料に載っている具体例を、AIに関するものにしぼって紹介します。
| 区分 | 資料に示された例 | 理由 |
|---|---|---|
| 助成対象 | 生成AIを活用して、商品提案書の構成案作成、文章生成、修正方法を学ぶ、営業担当者向けの訓練 | 営業担当者の具体的な業務に直結しており、そのまま活用可能な内容であるため |
| 助成対象外 | DXの概念、デジタル技術の概要、データ活用の考え方を学ぶ訓練 | 共通知識の習得にとどまり、具体的な作業として業務に直接適用される内容ではないため |
| 助成対象外 | 生成AIを利用するために、汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練 | 特定の業務への具体的な適用を伴わない、汎用的な内容であるため |
資料では、注意するポイントとして「特定の職業または職務に必要となる知識・技能を習得するためのものか」「マナー、リテラシー、概念理解にとどまっていないか」「訓練内容に沿って対象労働者を選定しているか」の3つが挙げられています。あわせて、eラーニングによる訓練の受講回数は、同じ労働者について1つの年度で1回までに変更されました(出典:同ページ掲載の「令和8年8月3日からの変更点について」)。
この線引きは、「定着するAI研修」の条件と重なる
今回の改正は、助成金の話にとどまりません。「誰の、どの業務に使うのか」が決まっていない研修は、助成の対象にならないだけでなく、社内にも定着しにくいからです。
総務省の情報通信白書でも、日本企業が生成AIの導入で挙げた懸念の1位は「効果的な活用方法がわからない」でした。AIの概要や一般的な使い方を学んでも、自分の業務と結びつかなければ、研修の翌日から使う人は増えません。社内に定着させる進め方は、AIに懐疑的な社員に使ってもらうには|製造業の定着手順で詳しく書きました。
製造業のAI研修の選び方:5つのチェック項目
- 対象の職務が決まっているか:「全社員向けのAI入門」ではなく、「見積担当者向け」「品質保証の担当者向け」のように、職務を特定した内容か
- 自社の実際の業務を題材にするか:自社の見積書、日報、検査記録、手順書など、ふだんの書類を使って演習するか
- 受講者を内容に合わせて選んでいるか:その業務を実際に担当している人が受けるか
- 研修のあとの使い方まで決まっているか:研修で作った頼み方や手順を、翌日からの業務でどう使うかまで設計されているか
- 情報の扱いのルールを含んでいるか:AIに入れてよい情報・だめな情報の線引きを、研修の中で決められるか
製造業でAIがどんな業務に使われているかは製造業のAI活用事例|見積・図面・日報・技術継承の実例を、5の情報の線引きはAIに売上や顧客情報を入れていい?情報の種類別の判断表を参考にしてください。
助成金を使うときに注意したい6つのこと
同じ厚生労働省の案内に書かれている注意点のうち、見落としやすいものを挙げます。
- 計画届は訓練の前に出す:職業訓練実施計画届は、訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に提出します。研修を受けたあとからは申請できません
- 支給申請には期限がある:訓練終了日の翌日から2か月以内に申請します
- 費用は会社がいったん全額を負担する:助成金は、あとから支給されます
- 「実質無料」をうたう研修に注意する:協力金や営業協力の対価で訓練費用を実質的に減額する仕組みは、経費助成の対象外とされています
- AIツールの導入費用は対象外:AI研修の費用は対象経費ですが、AIツールの導入費用は対象経費ではないと明記されています
- 申請の手続きは社会保険労務士の業務:研修会社など、社会保険労務士でない者が申請の手続きを代行することはできません
このコースは令和8年度までの期間限定です。計画届の提出期限から逆算すると、年度内に研修を始めたい場合は、早めに労働局か社会保険労務士に相談しておくと安心です。
当社のAI研修・支援の考え方
当社は、製造業のお客様向けのAI活用支援を、最初から「職務に直結する内容」で組み立てています。お客様の実際の見積書や日報、月次の報告書を題材にして、その業務を担当している方と一緒に手を動かす進め方です。当社自身が、見積書・請求書の作成や月次レポートの作成をAIで回しているので、その手順をそのままお見せできます。
なお、当社は助成金の申請手続きの代行は行っていません。助成の対象になるかどうかは、訓練の内容をもとに労働局が判断します。助成金の利用を検討される場合は、顧問の社会保険労務士や労働局にご相談のうえ、研修内容のすり合わせに当社をお使いください。
よくある質問
Q. 助成金が使えない場合、AI研修はやめたほうがよいですか?
助成金は費用を下げる手段で、研修の目的ではありません。毎週くり返している作業が1つでも短くなれば、研修の費用は作業時間の削減で取り戻しやすくなります。まず対象の業務を1つ決め、小さく始める方法もあります。進め方は製造業の業務自動化はAIでどこまでできるか|3つの段階をご覧ください。
Q. eラーニングのAI講座でも対象になりますか?
要件を満たせば対象になりますが、経費助成のみで、限度額も通学や同時双方向の訓練より低く設定されています。2026年8月の改正で、受講回数は同じ労働者について年度で1回までになりました。内容が職務に直結しているかどうかの線引きは、eラーニングでも同じです。
まとめ:AI研修は「誰の、どの業務か」から選ぶ
2026年8月の改正で、概念の理解や汎用的なプロンプトの学習にとどまるAI研修は、助成の対象外と明示されました。対象になるのは、特定の職務に直結し、そのまま業務で使える内容の訓練です。この条件は、研修が社内に定着するかどうかの条件とも重なります。製造業のAI研修は、「誰の、どの業務に使うのか」を決めるところから選んでください。
当社では、製造業のお客様向けに、業務の洗い出しから研修内容の設計、社内への定着までをAI活用支援として行っています。「うちの業務なら、どんな研修内容になるか」というご相談も歓迎です。お問い合わせはこちらから。
※この記事は2026年9月22日時点の厚生労働省の公表資料にもとづいています。要件や金額は変更されることがあり、助成の可否は個別に判断されます。