「AIで業務を自動化できる」と聞いても、どこまで任せてよいのか、何から手を付ければよいのかは分かりにくいものです。書類の下書きを頼むことと、システムへの登録まで任せることでは、必要な準備も、起きうる失敗もまったく違います。
この記事では、製造業の業務自動化を「3つの段階」に分けて、それぞれで何ができるか、どこから先は人が判断すべきかを整理します。社名を出して公開されている製造業の事例と、当社が実際にAIで回している業務、そこで起きた失敗もあわせて紹介します。
AIによる自動化は3つの段階に分けて考える
| 段階 | AIがすること | 製造業での例 | 人がすること |
|---|---|---|---|
| ① 下書き・相談 | 文章や表の下書き、調べもの、考えの整理 | 見積の送付メール、報告書の文案、社内規程のたたき台 | 内容を確かめて、自分で使う |
| ② パソコンとシステムの作業を任せる | ファイルを読んで整理する、システムに登録する、画面を操作して転記する | 手書き日報の読み取りと登録、注文書と受注内容の照合、見積書の作成 | AIの結果を確認し、送信・提出を決める |
| ③ 仕組みごと作る | 業務用のアプリや、決まった時間に動く仕組みを作る | 検査記録・在庫・進捗を管理する社内アプリ、毎朝のレポート | 仕組みの正しさを確かめ、使い方を決める |
①はChatGPTなどのチャット型AIで、今日からでも始められます。②と③は、パソコンの中の作業ができるClaude Codeのような道具を使います。いきなり③を目指すより、①で使い慣れてから、毎週くり返す業務を1つ選んで②に進むのが近道です。
② パソコンとシステムの作業を任せる:「1次チェックはAI、決めるのは人」
三重県伊賀市のジャバラメーカー、株式会社ナベル(従業員199名)は、年間約2万件の受注で、お客様の注文書と社内の受注チェックリストの突き合わせにAIを取り入れました。AIが1次チェックを行い、人は画面上で怪しいところを重点的に確認します。3名で行っていた作業が1名体制になり、作業時間も約半分になったといいます(出典:山陽新聞デジタル掲載のプレスリリース、2026年4月27日。AIツールの提供会社の発表で、同社の担当者が実名でコメントしています)。
この事例のポイントは、照合をAIに「任せきり」にしていないことです。AIには、人が見るべき箇所を絞り込ませる。最後の判断と、お客様への回答は人が行う。②の段階の自動化は、この分担で考えると失敗しにくくなります。
当社でも、見積書・請求書の作成や、お客様ごとの月次レポートの作成をAI(Claude Code)に任せています。AIは過去の記録と決まった手順を読んで下書きを作り、送る前には必ず代表が確認します。お客様(溶接・板金業)の工場では、手書き日報をAIに読み取らせて工数管理のシステムへ登録する仕組みにも取り組んでいます(手書き日報をAIで自動入力|Claude Code×工数管理API)。
③ 仕組みごと作る:プログラマーがいなくても社内アプリは作れる
石川県金沢市の岡田研磨株式会社(建設機械や産業機械向け部品の加工・組立)では、プログラミングの経験がない専務が、2023年末から生成AIとの対話を約2年、延べ1,000時間以上重ねて、社内の統合管理システムを自作しました。約30種類以上のアプリで、検査実績・品質報告・在庫・生産進捗などを一元管理しています(出典:中小企業白書2026 事例2-2-14、中小企業庁)。
白書によると、この取り組みで月5,000〜6,000枚分のペーパーレス化と、月530時間程度の労働時間の削減につながりました。同じシステムの開発を外注すれば約8,000万円かかるところ、内製ではAIの月額利用料だけで済んでいるそうです。
岐阜県海津市の田中工業(1960年創業、従業員17名、金属部品加工)でも、取締役がChatGPTやClaude Codeなどを使い分けて、作業手順を動画にした多言語対応のマニュアルや、受注から請求までをまとめて管理する仕組みを自作しています(出典:ビジネス+IT、2026年6月8日)。
ただし、③は「作って終わり」ではありません。岡田研磨でも、若手の推進チームが先に試してから全社に広げ、現場の意見を集めて日々直していると紹介されています。作った人が改善を続けられる体制まで含めて、自動化だと考えてください。
どこまで任せられるか:人に残すべき判断
どの段階でも、次のような判断はAIに任せず、人に残しておくのが基本です。
- お金と約束に関わること:見積金額・納期の決定、お客様への回答、発注の確定
- 品質と安全に関わること:製品の合否判定、作業の安全に関わる手順の変更
- 取り消せない操作:メールの送信、データの削除、支払い、公開
AIには「下書き」「候補の絞り込み」「1次チェック」までを任せ、確定の手前で人が確認する。この線引きを最初に決めておくと、自動化を広げても事故が起きにくくなります。
自動化に向く業務・向かない業務
| 向いている | 向いていない(まだ早い) |
|---|---|
| 毎週・毎月くり返す、手順が決まっている業務 | 毎回やり方が変わる、1回きりの業務 |
| 転記・照合・集計など、正解がはっきりしている業務 | 経験や勘による判断が中心で、根拠を説明しにくい業務 |
| 間違えても、確認の段階で直せる業務 | 間違えるとすぐに取り返しがつかない業務 |
| 元になる記録(紙・Excel・システム)がそろっている業務 | 必要な情報が人の頭の中にしかない業務(先に手順書にする) |
「情報が人の頭の中にしかない」業務は、いきなり自動化せず、まず手順書にするところから始めます。手順書づくり自体にもAIが使えます(製造業の社内ルールをAIに覚えさせる|CLAUDE.mdの書き方)。
当社で起きた失敗と、そこから決めたルール
②の段階では、AIが実際に画面やファイルを操作するので、失敗も起きます。当社でも、AIに「議事録から個人情報を消して」と頼んだところ、検索窓に入力したつもりの文字が本文に入り、議事録の全文が4文字に置き換わったことがありました。すぐに元に戻せましたが、それ以来、次のルールを決めています。
- 入力の前に、いまどこに入力しようとしているかを確かめさせる
- 送信・保存の前に、入れた内容を読み戻して人に見せる
- 置き換えのあとは、もう一度検索して結果を確かめる
人なら無意識にやる確認を、AIは飛ばすことがあります。自動化を進めるほど、こうした確認の手順を「ルール」として書き残しておくことが大切です。
プログラマーなしで始める5つのステップ
- 業務を書き出す:1週間の仕事のうち、転記・照合・集計・報告書づくりに使っている時間を洗い出す
- 1つだけ選ぶ:毎週くり返し、間違えても確認で直せる業務を選ぶ
- 手順を書く:いまのやり方を、新人に教えるつもりで箇条書きにする
- AIと小さく作る:チャットで下書きを作らせるところから始め、慣れたらClaude Codeなどでファイルやシステムの作業まで任せる
- 確認の手順と記録を残す:人が確かめる箇所を決め、うまくいった手順を手順書に残して、次の業務に広げる
よくある質問
Q. プログラミングの知識は必要ですか?
①と②の多くは不要です。③の社内アプリづくりも、岡田研磨のようにプログラミングの経験がない人が、AIとの対話を重ねて実現した例があります。ただし、白書では延べ1,000時間以上の対話を重ねたと紹介されており、時間をかけて学び続ける覚悟は必要です。
Q. 費用はどれくらいかかりますか?
AIの利用料は、個人向けの月額プランから始められます。Claude Codeの料金の考え方はClaude Codeの料金、対話と自動実行で別枠に|初心者向け解説にまとめています。システムを外注する場合と比べると、内製の費用は大きく下がります。一方で、担当者が学ぶ時間と、作ったものを直し続ける時間は必要です。
まとめ:まず②の段階を1業務で回す
製造業の業務自動化は、下書き・相談から、システムの作業を任せる段階、仕組みごと作る段階へと進めていけます。どの段階でも、お金・品質・取り消せない操作の判断は人に残し、AIには1次チェックまでを任せる。まずは毎週くり返す業務を1つ選び、②の段階で回してみてください。
当社では、製造業のお客様向けに、AIの導入から自動化の設計、社内への定着までをAI活用支援として行っています。「うちのこの作業、自動化できる?」という段階のご相談も歓迎です。お問い合わせはこちらから。
当社がAIで業務を回している仕組み(フォルダ設計とテンプレ一式)は、noteで公開しています(有料)。
Claude Codeの記事は、始め方から業務での使い方までClaude Code 活用ガイドにまとめています。