「見積書を作るたびに、図面番号や単価を表計算に打ち込み、同じ内容を販売管理のシステムにもう一度入れている」。製造業の見積業務では、金額を考える時間より、こうした転記と登録に時間を取られている会社が少なくありません。
当社の支援先の製造業の社長は、この転記と登録の多くをAI(Claude)に任せています。2026年10月の定例の打ち合わせで、実際の画面を見ながら仕組みを説明していただきました。社名を出さない形で当社サイトで紹介することについて、ご本人の了承をいただいています。
この記事では、その社長の仕組みのうち「見積」に関わる部分を中心に、人とAIがどう分担しているか、まだAIに任せていないことは何か、安定して動かすためにどんな工夫をしているかを紹介します。
見積から受注、工数管理までの流れ

この社長の会社では、販売管理にfreee販売、工数管理にfreee工数管理を使っています。どちらもAPI(外部のプログラムからデータを読み書きするための窓口)が公開されており、AIがこの窓口を通じて見積や受注を登録しています。見積の表計算ファイルはこれまでどおりExcelです。
打ち合わせで見せていただいた流れを、人がやることとAIがやることに分けると次のとおりです。
| 工程 | 人がやること | AIがやること |
|---|---|---|
| 1. 見積の下書き | 見積の元になるシートを自分で埋める | なし |
| 2. 原価の入力 | なし | 図面番号や単価などを、見積の原価の欄に入力する |
| 3. 売価の決定 | 数量と、お客様に出す単価を入力する | なし |
| 4. 見積の登録 | なし | 修正後のファイルを読み、freee販売に案件と見積を登録し、採番された見積番号をExcelに書き戻して保存する |
| 5. 受注の登録 | お客様から届いた書類をAIに渡す | 受注として登録し、お客様の注文番号や、売上・請求・入金の予定日などを入力する |
| 6. 工数管理の準備 | なし | freee工数管理に、その案件のプロジェクトを作る |
見ていただくと分かるとおり、AIが担当しているのは「すでに決まっている情報を、決まった場所に入れる」作業です。金額を決めるところは、社長ご自身が行っています。
値決めは人、転記と登録はAIという分担

原価の欄はAI、売価は社長
最初に社長が見積の元になるシートを埋めます。この段階では、見積の明細はまだ空の状態です。これをAIに渡すと、図面番号や単価が原価の欄に入った状態で返ってきます。社長はそれを見て、数量とお客様に見せる単価を自分で入れます。
原価と売価を分けて、売価だけは人が入れる。この線引きがあるので、AIが出した数字がそのままお客様に出ていくことはありません。見積は会社の利益に直結する書類なので、最後の数字を人が決める形は、どの会社でも取り入れやすい分担だと考えます。
見積番号の採番と書き戻しもAIが行う
売価を入れたファイルをもう一度AIに読み込ませると、AIがfreee販売に案件と見積を登録します。freee販売で見積番号が採番されたら、その番号をExcelの見積に書き込んで保存するところまでがAIの担当です。
表計算と販売管理のシステムを両方使っている会社では、「Excelで作った見積をシステムにも入れ直す」「システムの番号をExcelに写す」という二重の作業が起きがちです。この部分をAIに任せたことで、同じ情報を2回入力する場面がなくなっています。
受注の書類は、特に指示をしなくても読み込む
受注が決まり、お客様から書類が届いたら、その書類をそのままAIに読み込ませます。社長によると、細かい指示を出さなくても、AIが見積を受注として登録し、お客様の注文番号や売上・請求・入金の予定日などを入れてくれるそうです。続けて、freee工数管理にその案件のプロジェクトを作るところまで自動で進みます。
打ち合わせの中で当社の堀江は「手入力の間違いがなくなりそうですね」とお伝えしました。転記の回数が減れば、打ち間違いが入り込む機会も減ります。
まだAIに任せていないこと
紹介した仕組みは、見積のすべてをAIが行っているわけではありません。社長ご自身も「見積はまだそこまで注力していない」と話していました。打ち合わせの時点で、AIに任せていなかったことは次の3つです。
- 金額を決めること:数量と売価は社長が入力しています
- 見積書のPDF化:ExcelのデータをPDFにする作業はAIが苦手そうで時間がかかったため、まだ任せていないそうです
- 過去の実績から金額の目安を出すこと:過去の案件や明細のデータから見積額の予測を出させる使い方は、まだ行っていません
3つ目について、堀江は打ち合わせで「過去の案件や明細のデータから予測値を出させることは、できると思う」とお伝えしました。転記と登録が回り、案件ごとのデータがシステムにそろってくれば、次の段階として検討できる使い方です。最初から金額の予測を狙うのではなく、まず転記と登録を任せてデータをそろえる、という順番は理にかなっています。
データがそろうと、案件と人ごとの粗利が見える

見積と受注が販売管理に、案件ごとのプロジェクトが工数管理に登録されていると、あとから数字を組み合わせて見ることができます。社長が「経営的にかなりいいと思った」と話していたのが、この使い方でした。
freee工数管理から1年分の工数データをCSVで取り出すと、案件ごとに誰が何時間かかったかが分かります。これをfreee販売の売上や粗利のデータと突き合わせることで、一人ひとりが1年間でどれだけの粗利を生んでいるかまでAIに計算させています。
社長は「見えなくてもいい部分が見えてしまうこともあり、一長一短はある。ただ、数字を正確に把握するという意味では大事」と話していました。個人の生産性が数字で見えることは、扱い方に気をつかう情報でもあります。社内でどう使うかは、会社ごとに決めておく必要があります。
見積の段階で入力を正確にしておくことが、こうした分析の土台になります。見積の転記と登録をAIに任せる効果は、手間が減ることだけではありません。
安定して動かすために社長が工夫していること
AIに業務を任せると、同じ指示でも動きが日によって違う、という悩みが出てきます。この社長も、途中で次のような見直しをしていました。
- 指示を1か所にまとめた:作業ごとに分けたAIの担当それぞれに指示があり、元になる設定ファイルに書かれていなかったため、担当ごとにやることが違う場面があった。指示を元の設定ファイルに集めてからは、そのずれがなくなった
- 指示を変えた日と内容を記録させている:手順を改定するたびに、いつ何を変えたかを設定ファイルに書き残させている(動きがおかしくなったときに、どの改定が原因かをたどれるように)
- 作業後に人が確かめる段階を必ず通す:確認の段階を設けていたが機能していなかったことに気づき、必ず機能するように直した
当社からは、設定ファイルが長くなると動きが不安定になるおそれがあるため、「そのフォルダでやってはいけないこと」などの基本ルールだけを設定ファイルに残し、見積の一連の作業のような手順は「スキル」として作業ごとに分けてまとめることをおすすめしました。また、毎回の承認を省きたいという相談には、触らせないファイルや作業できるフォルダを先に決め、安全を整えてから自動化するようお伝えしています。
設定ファイルの書き方は製造業の社内ルールをAIに覚えさせる|CLAUDE.mdの書き方、触らせない情報の守り方はAIの誤操作を防ぐには|触らせない情報をルールと設定で守るで詳しく紹介しています。
自社の見積で始める前に確かめたいこと
この事例を自社に当てはめるときは、いきなり全部を自動にするのではなく、次の点を順に確かめるのがおすすめです。
| 確かめること | 見るポイント |
|---|---|
| 同じ情報を何回入力しているか | 見積の表計算、販売管理、工数管理などに、同じ図面番号や金額を打ち直していないか |
| 使っているシステムにAPIがあるか | APIがあれば登録までAIに任せやすい。なければ、まずは読み取りと下書きだけをAIに任せる |
| 見積のファイルの形がそろっているか | シートの並びや項目名が毎回同じなら、AIに同じ作業を繰り返させやすい |
| 人が決める部分はどこか | 売価や値引きなど、利益に関わる判断を人に残す線を先に決める |
| 誰がどこで確かめるか | AIが登録した内容を、送る前や締める前に誰が見るかを決めておく |
PDFの書類を読み取ってシステムに登録する方法は、PDFの手入力をAIに任せる3つの方法で、見積以外も含めた業務別の活用例は製造業のAI活用事例|見積・図面・日報・技術継承の実例でまとめています。
よくあるご質問
freeeを使っていないと、同じことはできませんか?
この事例はfreeeのAPIを使っていますが、考え方は他のシステムでも同じです。外部から登録できる窓口(API)や、CSVなどの取込機能があれば、AIに登録まで任せられる可能性があります。どちらもない場合は、AIに読み取りと下書きまでを任せ、登録は人が行う形から始められます。
AIが見積の金額を間違えたら困りませんか?
この事例では、お客様に出す単価は社長が入力しており、AIは原価の欄や番号、予定日など決まった情報の転記を担当しています。金額を決める部分を人に残し、AIが入力した内容を人が確かめる段階を設けておけば、間違った金額がそのまま出ていくことは防げます。
プログラムを書ける社員がいなくても始められますか?
紹介した社長は、手順をAIと相談しながら作り、改定を重ねてきました。最初から全工程を作る必要はありません。まずは「Excelの見積の内容をシステムに登録する」など1つの作業から試し、うまく回ってから次の作業に広げるのが現実的です。
まとめ:見積は「値決めは人、転記と登録はAI」から
今回の事例で、AIが担当しているのは見積の原価欄の入力、見積と受注の登録、見積番号や予定日の入力、工数管理への案件作成といった転記と登録の作業です。金額を決めるところは社長が行い、作業後に人が確かめる段階も設けています。そうして入力がそろうことで、1年分の工数と売上を組み合わせた粗利の分析までできるようになりました。
当社の支援先の中でも、ここまで仕組みを作り込んでいる例はまれです。ご希望であれば、該当の社長にセミナーを依頼することも可能です。実際に取り組んでいる経営者の話を聞いてみたい、という団体や企業の方は、お問い合わせからご相談ください。
自社の見積や受注の作業をAIで減らしたいというご相談は、AI活用支援でお受けしています。どの作業から任せるか、どこを人に残すかの線引きから一緒に考えます。
関連コラム
- 製造業のAI活用事例|見積・図面・日報・技術継承の実例
- 手書き日報をAIで自動入力|Claude Code×工数管理API
- PDFの手入力をAIに任せる3つの方法|社内システム登録
- 製造業の社内ルールをAIに覚えさせる|CLAUDE.mdの書き方
参考資料
- freee Developers Community(販売API・工数管理APIの概要) https://developer.freee.co.jp/
- freee販売 製品ページ https://www.freee.co.jp/sales-management/
- freee工数管理 製品ページ https://www.freee.co.jp/project-management/