2026年10月下旬、PHPの緊急の脆弱性への対応として、あるレンタルサーバー会社が、古いPHPのまま動いているサーバーのホームページ公開を一斉に止めました。当社の支援先にも、ある朝突然ホームページが表示されなくなった会社がありました。ご担当者からは「まずホームページだけ別のサーバーに移したい」というご相談をいただきました。
ところが、ドメインの設定(DNSレコード)を確認すると、そのまま行き先を切り替えれば、ホームページと一緒にメールも止まってしまう構成になっていました。原因は、メールの届け先を決める「MXレコード」の書き方です。この記事では、サーバーを移転するときにメールが止まる仕組みと、止めずに移すための順番を、実際の対応に沿って説明します。
ホームページとメールの行き先は、DNSで決まっている

「example.co.jp」のようなドメインには、ホームページを見に来た人やメールをどこへ案内するかを書いた設定があります。これがDNSレコードです。サーバーの移転で関係するのは、主に次の4つです。
| レコード | 役割 | 移転のときに見ること |
|---|---|---|
| Aレコード | 名前(example.co.jp や www.example.co.jp)を、サーバーの住所(IPアドレス)に結びつける | ホームページの切り替えは、ここを新しいサーバーの住所に書き換える |
| MXレコード | そのドメイン宛てのメールを、どの名前のサーバーに届けるかを決める | 届け先の名前が、Aレコードを書き換える名前と同じになっていないか |
| TXTレコード(SPF) | そのドメインのメールを送ってよいサーバーを宣言する | 新しいサーバーからメールを送るなら、追加が必要になることがある |
| NSレコード | 上の設定を、どこの管理画面で書き換えるかを決める | 自社が書き換えられる画面に入れるか |
ポイントは、MXレコードがサーバーの住所を直接書くのではなく、「この名前のサーバーへ」と名前で指定することです。届けられた名前の住所は、Aレコードで調べられます。つまり、MXレコードとAレコードはつながっています。
落とし穴:MXがドメインそのものを指していると、メールも一緒に動く

支援先のDNSでは、MXレコードの届け先が、ドメインそのもの(説明用に example.co.jp とします)になっていました。example.co.jp のAレコードは、ホームページとメールを同じ1台で動かしている、いまのサーバーを指しています。
| レコード | いまの設定 | Aレコードだけ書き換えると |
|---|---|---|
| A(example.co.jp) | いまのサーバー | 新しいサーバー(ホームページは新サーバーで表示される) |
| MX | example.co.jp へ届ける | 変えていないが、届け先の example.co.jp が新しいサーバーを指すようになる |
| メールの行き先 | いまのサーバー(受信できる) | 新しいサーバー(メールの準備がなければ受け取れない) |
このように、MXがドメインそのものを指している場合、ホームページのためにAレコードを書き換えると、メールの届け先まで新しいサーバーに移ってしまいます。新しいサーバーでメールの受け取りを準備していなければ、取引先からのメールが届かなくなります。ホームページは表示されて一見うまくいったように見えるため、気づくのが遅れやすいのも厄介な点です。
MXが「mail.example.co.jp」のように、ホームページとは別の名前を指していれば、この問題は起きません。自社のMXがどちらになっているかは、DNSの管理画面のレコード一覧で確かめられます。
メールを止めずにホームページを移す順番

今回の支援先では、ホームページを先に新しいサーバーへ移し、メールはしばらくいまのサーバーで受け続ける方針にしました。そのために組んだ順番は次のとおりです。
- いまのDNSレコードをすべて控える:A・MX・TXT・NSを一覧にし、画面の写しも残します。戻すときの手がかりになります
- メール用の名前を作る:mail.example.co.jp のAレコードを追加し、いまのサーバーの住所を指すようにします
- MXの届け先を書き換える:MXレコードを example.co.jp から mail.example.co.jp に変えます。届く先のサーバーは同じなので、この時点でメールの動きは変わりません
- メールソフトの設定を確かめる:受信・送信サーバーの欄に何が入っているかを見ます(次の章で説明します)
- 新しいサーバーでホームページを用意する:データを移し、切り替える前に表示と動作を確認します
- ホームページの行き先を切り替える:example.co.jp と www.example.co.jp のAレコードを新しいサーバーの住所に書き換えます
2と3を先に済ませておくことで、6でAレコードを書き換えても、メールは mail.example.co.jp を通じていまのサーバーに届き続けます。DNSの書き換えは、すぐに全員へ行き渡るわけではないため、メールの設定変更とホームページの切り替えの間には時間を空けるのが安全です。
ホームページの問い合わせフォームから自動でメールを送っている場合は、送信元が新しいサーバーに変わります。SPFに新しいサーバーが含まれていないと、通知メールが迷惑メール扱いになることがあるため、切り替えのあとにフォームから試しに送って確かめます。
メールソフトの「サーバー名」も確認する
DNSだけでなく、社員のパソコンのメールソフトに入っている受信・送信サーバーの名前も見ておく必要があります。ここにドメインそのもの(example.co.jp)が入っていると、Aレコードの切り替えと同時に、メールソフトが新しいサーバーへつなぎに行ってしまいます。
| メールソフトのサーバー欄 | ホームページを切り替えたときの影響 | 対応 |
|---|---|---|
| example.co.jp | 新しいサーバーにつなぎに行き、送受信できなくなる | 切り替え前に mail.example.co.jp などへ変更する |
| mail.example.co.jp | 影響なし(いまのサーバーのまま) | 変更不要 |
| サーバー会社が用意した名前(ドメインと無関係のもの) | 影響なし | 変更不要 |
支援先では、ご担当者にメールソフトのアカウント設定画面を送っていただき、サーバー欄にサーバー会社が用意した名前が入っていることを確かめました。この場合、移転のときにメールソフトの設定を変える必要はありません。ただし、パソコンごとに設定が違うこともあるため、複数台あれば1台ずつ確認するのが確実です。
DNSを書き換える画面に、いま入れるか

今回はもう一つ、つまずいた点がありました。支援先のDNSの書き換えは、サーバー会社の管理画面から行う仕組みでしたが、その管理画面もホームページと一緒に止められていたのです。新しいサーバーへの引っ越しは進められても、DNSを書き換える段階だけは、管理画面が再開するまで待つことになりました。
サーバー会社でトラブルが起きたときに、DNSまで同じ会社の管理画面に頼っていると、逃げ道がふさがれることがあります。移転を考え始めたら、次の点を先に確かめておくと慌てずに済みます。
- DNSのレコードを書き換える管理画面はどこか(サーバー会社か、ドメイン会社か)
- その画面のログイン情報が社内にあり、今も入れるか
- MXレコードの届け先がドメインそのものか、別の名前か
- メールソフトのサーバー欄に何が入っているか
- ドメインの名義と有効期限
なお、今回ホームページが止められたのは、サポートの終わった古いPHP(PHP 7.4)のまま動いていたサーバーでした。サーバー会社は数日後、修正を当てたPHP 7.4で公開を再開しましたが、PHPの公式サイトによると、PHP 7.4のサポートは2022年11月28日に終わっています。次に同じような脆弱性が見つかったときに修正が出る保証はなく、新しいPHPを使えるサーバーへの移転をおすすめしています。止まったときの当社の対応はPHPの緊急脆弱性への対応記録にまとめています。
よくあるご質問
メールも新しいサーバーに移したい場合はどうなりますか?
移せます。ただし、新しいサーバーにメールアドレスを作り、メールソフトの設定を変え、残したい過去のメールを移すといった作業が別に必要です。ホームページの移転と同時に行うと、トラブルが起きたときに原因を切り分けにくくなるため、ホームページを先に移し、メールは後から別の作業として行う進め方もあります。
自社のMXレコードがどうなっているか、管理画面に入らずに調べられますか?
MXレコードは公開されている情報のため、DNSを調べるWebサービスなどで外から確認できます。ただし書き換えるには管理画面が必要です。ホームページの管理を外部に任せている場合は、担当の会社に「MXの届け先」と「DNSの管理画面の場所」をあわせて聞くのが早道です。
切り替えのあと、メールが届いているかはどう確かめますか?
社外のアドレス(携帯電話のメールなど)から自社のアドレスに送って、受信できるかを確かめます。あわせて、自社からも社外へ送り、届くかを見ます。ホームページの問い合わせフォームを使っている場合は、フォームからも1通送ってください。
まとめ:Aを書き換える前に、MXとメールソフトを見る
サーバーの移転でメールが止まるのは、MXレコードがドメインそのものを指していて、ホームページの切り替えにメールが引きずられるためです。先にメール用の名前を作ってMXを向け替え、メールソフトのサーバー欄を確かめてから、ホームページの行き先を切り替えれば、メールを止めずに移せます。DNSを書き換える画面に入れるかどうかも、トラブルが起きる前に確かめておきたい点です。
当社では、サーバーの移転やPHPの更新、DNSの設定を含めたWebサイト保守・運用サポートをお受けしています。「移転したいが、メールが止まらないか不安」「DNSの管理画面がどこにあるか分からない」といったご相談は、お問い合わせからお気軽にどうぞ。
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参考資料
- PHP「Unsupported Branches」(PHP 7.4 のサポート終了日) https://www.php.net/eol.php
- PHP「Supported Versions」 https://www.php.net/supported-versions.php