「AIを使ってみたいけど、図面の情報が漏れたりしないのか?」「AIの回答って嘘が多いんでしょう?」——AIに興味を持ち始めた製造業の経営者や担当者の方から、こうした不安の声をよく聞きます。
こうした心配はもっともですが、正直に言えば、リスクを正しく理解していれば過度に恐れる必要はありません。実際にAIを活用している製造業の方々で、情報漏洩などのトラブルが起きた事例はほとんど聞きません。むしろ「怖いから使わない」ことで、業務効率化の機会を逃してしまうほうがもったいないと言えます。
この記事では、製造業がAIを使う際に知っておくべきリスクと注意点を、過度に煽ることなく正直に解説します。前回の記事でAIの基本と使い方を紹介しましたが、今回はその「安全な使い方」編です。
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「AIに入力した情報が漏れる」は本当か?

製造業の方がAIに対して一番心配しているのは、「入力した情報がAIに学習されて、他の人の回答に使われるのではないか」という点です。特に図面情報や取引先の情報を扱う製造業では、この懸念は当然のことです。
結論: 設定次第で学習に使わせないことができる
主要なAIサービス(ChatGPT・Claude・Gemini)には、入力した内容をAIの学習データとして使わない設定が用意されています。
| サービス | 学習オフの方法 | 備考 |
|---|---|---|
| ChatGPT | 設定 → データコントロール →「モデルの改善」をオフ | オフにしても会話履歴は残る |
| Claude | 無料プランでも入力内容をモデル学習に使用しない方針 | Anthropic社の公式ポリシーで明示 |
| Gemini | アクティビティ管理 →「Geminiアプリのアクティビティ」をオフ | Google Workspaceプランは初期設定でオフ |
つまり、設定を確認すれば「AIが学習して情報が漏れる」という事態は防げます。各サービスの設定方法については、ChatGPT・Claude・Geminiの比較記事でも触れています。
ただし、入力内容はサーバーに送信される
注意すべきなのは、「学習に使われない」としても、入力した内容はAIサービスのサーバーに一時的に送信されるという点です。これは、AIが回答を生成するために必要な処理です。
そのため、以下のような情報は入力を避けるのが無難です。
- 図面そのもの(特に未公開の製品図面)
- 取引先との守秘義務がかかっている情報
- 特許出願前の技術情報
- 社員の個人情報(住所・マイナンバー等)
逆に言えば、一般的なメールの返信、調べもの、文書の下書きなどは、機密情報を含まない範囲で使う限り問題ありません。
図面をAIに読ませる — 現状と限界

「AIに図面を見せれば、加工方法や見積もりを出してくれるのでは?」という期待を持つ方もいます。最新のAIは画像を読み取る機能を持っていますが、製造業の図面に関しては、現時点ではまだ限界があります。
精度が低くなる一番の原因は「前提条件の不足」
図面をAIに見せても、期待通りの回答が返ってこないケースが多いのが現状です。その最大の原因は、AIに図面だけを見せても前提条件が足りないことにあります。
たとえば、ある部品の加工方法を聞きたい場合、AIには以下のような情報が必要です。
- 自社が保有する設備(マシニングセンタの軸数、旋盤の最大加工径など)
- 対応可能な材質や加工精度
- ロットや納期の条件
- 社内の加工ルールや品質基準
図面だけを渡して「この加工はどうすればいい?」と聞いても、AIはこうした前提条件がわからないため、一般的で当たり障りのない回答しか返せません。
前提条件を補う方法
もし図面関連でAIを使いたい場合は、図面そのものを見せるのではなく、図面の内容を言葉で伝える方法がおすすめです。
プロンプト例
以下の条件の部品について、加工手順のアドバイスをください。
【部品情報】
・材質: SUS304
・外形: φ50×L100mm の円筒形
・内径: φ30mm の貫通穴
・公差: 外径 ±0.05mm、内径 ±0.03mm【当社の設備】
・CNC旋盤(最大加工径φ200mm)
・マシニングセンタ(3軸)
・円筒研削盤
このように言語化して伝えれば、図面の画像を送信せずに済みますし、設備情報も含められるので精度の高い回答が期待できます。
ハルシネーション — 「AIは嘘をつく」の正体

「AIって嘘をつくんでしょう?」というイメージを持っている方は多いです。これは完全に間違いではありませんが、正確に理解しておく必要があります。
ハルシネーションとは何か
ハルシネーション(hallucination=幻覚)とは、AIがもっともらしいが事実と異なる情報を生成する現象のことです。たとえば、存在しない会社名を挙げたり、実際とは違う規格番号を回答したりすることがあります。
これはAIが「嘘をつこう」としているわけではなく、AIの仕組み上、確率的にもっともらしい文章を生成する過程で起きる現象です。
製造業で特に注意すべきケース
ハルシネーションが問題になりやすい場面を整理しておきましょう。
| 場面 | リスクの程度 | 対策 |
|---|---|---|
| メール文面の作成 | 低い | 送信前に自分で読み返すだけでOK |
| 一般的な技術知識の確認 | 中程度 | 重要な数値はJIS規格等で裏取り |
| 具体的な会社名・製品名の検索 | 高い | 必ずホームページ等で存在を確認 |
| 法規制・認証に関する情報 | 高い | 公的機関の原典で確認必須 |
| 加工条件・材料特性の数値 | 高い | JISハンドブック等の一次資料で確認 |
「AIは嘘つき」で終わらせるのはもったいない
ハルシネーションがあるからといって「AIは使えない」と結論づけるのは早計です。上の表を見ればわかるように、メールの文面作成や調べものの「たたき台」としては十分に使えます。
大事なのは、AIの回答を最終成果物としてそのまま使うのではなく、「下書き」として扱うことです。人間が最終チェックを入れる前提で使えば、ハルシネーションのリスクは十分に管理できます。
著作権 — AIが作った文章は誰のもの?

AIを使ってホームページの文章やブログ記事を作る場合、「著作権はどうなるのか?」という疑問が出てきます。
現時点での基本的な考え方
日本の著作権法では、AIが自動生成した文章には著作権が発生しないとされています(文化庁の見解、2024年時点)。つまり、AIが出力した文章をそのまま使っても著作権侵害にはなりませんが、その文章に著作権による保護もありません。
ただし、以下の点には注意が必要です。
- AIが既存の文章に似た表現を生成する可能性 — AIは膨大なデータを学習しているため、既存のWebサイトや書籍と似た表現が出てくることがあります。そのまま使うと、意図せず他者の文章と酷似してしまうリスクがあります
- 「AIで作成した」ことの開示義務は現時点ではない — ただし、技術コラムやホームページの信頼性を考えると、AIの出力をそのまま使うのではなく、自社の知見を加えて書き直すのが望ましいです
製造業での実用的な対処法
著作権の問題を過度に心配する必要はありません。実用的な対処法はシンプルです。
- AIの出力はあくまで「下書き」として使う
- 自社の経験や具体的な事例を加えて書き直す
- 他社サイトと表現が似ていないか、公開前にチェックする
この3つを守っていれば、著作権に関するリスクはほぼありません。
社内でAIを使うときのルール — 最低限の3つ

ここまでリスクと注意点を解説してきましたが、「じゃあ結局どうすればいいのか」をシンプルにまとめます。社内でAIを使い始める際は、最低限以下の3つのルールを決めておけば十分です。
ルール1: 入力してはいけない情報を決める
「何を入力してよくて、何がダメか」の線引きを明確にしておきましょう。
| 入力OK | 入力NG |
|---|---|
| 一般的なビジネスメールの文面 | 未公開の図面・設計データ |
| 公開済みの自社技術情報 | 取引先の守秘義務がある情報 |
| 一般的な技術知識に関する質問 | 特許出願前の技術情報 |
| 社内文書のフォーマット作成 | 社員・取引先の個人情報 |
| 公開情報をもとにした競合調査 | 見積もり金額・原価情報 |
ルール2: AIの回答は必ず人間が確認する
AIの出力をそのまま外部に出さない。これだけで、ハルシネーションによるトラブルのほとんどは防げます。特に以下の場面では必ずダブルチェックをしましょう。
- 取引先に送るメール・見積もり
- ホームページに掲載する技術情報
- 法規制・安全に関する情報
ルール3: 学習オフの設定を全員に周知する
AIサービスの「学習に使わない」設定を、AIを使う社員全員に設定してもらいましょう。一度設定すれば、以降の入力内容はすべて学習対象外になります。設定方法は各サービスの管理画面から数クリックで完了します。
「怖いから使わない」が一番のリスク

ここまでリスクと注意点を解説してきましたが、最後に一つお伝えしたいことがあります。
実際にAIを業務で活用している製造業の方々で、情報漏洩やハルシネーションによる深刻なトラブルが発生した事例は、私の知る限りほとんどありません。そもそも、まだAIを積極的に使っている製造業の方が少数派です。
むしろ本当のリスクは、「怖いから使わない」と判断して、AIによる業務効率化の機会を逃し続けることではないでしょうか。競合他社がAIを使って見積もり対応のスピードを上げ、ホームページの情報発信を強化し、営業活動を効率化していく中で、AIを使わないこと自体が競争力の差につながる可能性があります。
リスクはゼロにはなりません。しかし、この記事で紹介した3つのルールを守れば、製造業の日常業務でAIを安全に活用できます。過度に恐れず、まずは前回の記事で紹介したメールの返信あたりから試してみてください。
まとめ

この記事のポイントをまとめます。
- 情報漏洩の心配は設定で対策可能。各AIサービスの「学習オフ」設定を確認し、機密情報は入力しないルールを決めれば十分
- 図面をAIに見せるのは現状では限界がある。図面の画像を送るのではなく、内容を言語化して前提条件とともに伝えるのが実用的
- ハルシネーションは「下書き」として使えば問題ない。AIの回答を最終成果物にせず、人間が必ず確認する運用にする
- 著作権は、自社の知見を加えて書き直せばリスクなし
- 「怖いから使わない」が一番もったいない。3つのルールで安全に使える
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